注文「も」多いレストラン 前後話

名前: @raidy9 / 藤堂雷
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公開範囲:公開 閲覧数:225
作成時刻:2016-01-10 11:33:20 更新時刻:2016-01-31 14:32:08
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注文「も」多いレストラン 前日譚と後日談



前日譚ーーーーーーーーーーーー


――「物語」は伝染する。言葉という名の風に乗り、記憶という土壌に根付くのだ。
「怪異」は伝染する。記憶に植わった「芽」が、魔界の陽光を見つめるのだ――



 とあるレストランの前を通り過ぎる人々はみな、通り過ぎざまにちらりと後ろをそのレストランを向いていた。いや、正しくはレストランの前で携帯をいじっているその人物を一瞥しているようだった。その男の顔は、おそらく見ればその日の夜うなされるだろう酷い容貌だ。幾重にも形成されたにきびが肌に堆積し、一部は黒ずみ、一部は皮膚に穴を穿ち、一部は過剰に再生しようとした皮膚がケロイド状に引き攣れ異様な紋様を描いていた。いわゆる「蓮コラ」が苦手な人などは彼の顔を見ただけで心臓麻痺を起こしてしまうだろう。彼の顔に平らな面など、眼球を除いて存在しなかった。彼は携帯から顔を上げた、タイミング悪く彼の容貌に驚き振り返った女子高生と目が合った。すると彼はニコリと笑って手を振った。この世のものとは思えないほど醜い男に笑顔で手を振られた女子高生は青ざめ、悲鳴を上げながら猛ダッシュで逃げていった。
「美しいって、罪だなあ……」
 彼は、幸か不幸かは知らないが、心の底から自分は美しいと思い込んでいた。

 やがてそんな狂気じみた顔を持つ男の元に、一般的な容貌の人間が片手を上げながら現れた。
「やあ国分、待たせたな」
 顔面崩壊男こと国分は待ち人を笑顔で迎えた。
「おーっす熊野! おっひさー!」
 熊野文彰は、旅行代理店に勤める国分の友達である。少々肥満気味の体型ではあるが、太い眉と彫りの深い顔と紺色のコートが全体の印象をシャープにまとめていた。これがAPP格差である。熊野はちらりとレストランを見上げる。
「野郎が2人で入るにはいささか上品すぎる気はするが……」
「あ? この店はわざわざお前のためにリサーチしたんじゃねーよ。今度の商談に使おうかなーっていう下見も兼ねてんだからな」
「そうかい」
 熊野が店の扉を開けると、涼やかなベルの音がした。

「ところで熊野、この町の支所に転勤してきたってのは左遷? それとも昇進?」
 ウェイターにメニューを注文すると早速国分は無礼な口を叩く。
「昇進に決まっているだろう、緋貝市とこの街の人口を比べてみろ、雲泥の差だぞ」
「緋貝市ってそんなに寂れたとこなの? 俺行ったことないからわかんねーけど。それなら良かった、それじゃあ今日は熊野の転勤おめでとう会ってことで!」
「この店の下見の”ついで”におめでとう会を開いてくれて、どうもありがとう」
 友人たちは水の入ったグラスで乾杯した。グラスを飲み干しながらふと熊野は宙を見つめ、それから国分に目を戻した。
「そういえば、この間大騒ぎしていた君の同僚さんは無事に帰ってきたのか?」
 国分はその問いかけにぴくりと眉を動かした。
「ああ、おかげさんで帰ってきたよ。一応は」
「一応?」
 その醜い顔にさらに渋面を作る。
「もちろん元気に生きて帰ってきたんだけど……なんだろ、ストレスとかそんなのなのかな、ちょっと様子が変なんだな」
 頻繁に人の顔、特に女性社員の顔を見間違えたり、身なりはいつも綺麗に整えていたはずなのに化粧が乱雑になったり、鏡を見ることを異様に恐れたり……全ての異常は、彼女が迷子になったその次の日から発症していた。
「俺は別に、宇宙人に攫われて脳みそいじくられたとか、妖怪に化かされたとかそんなネタは好きでもなんでもねーよ。でも、まだ気になってんだ。どの路線図にもないこの駅も、どの地図にも載っていない比奈って町も」
 国分は携帯電話を操作して、同僚から送られてきた「きさらぎ駅」の写真と、「比奈」の観光ポスターの写真を表示した。同僚が帰ってきた後も、国分はその写真を消すことができなかった。この写真から彼はかすかな好奇心をかき立てられていた。駅舎自体には特にこれといった魅力もない、中途半端に近代化し中途半端に古めかしい駅舎は、映画のロケにも何にも使えそうにない。しかし、不思議に心が惹かれるのだ。古井戸の蓋、長い間放置していた食品の瓶の蓋、不法投棄された冷蔵庫の扉、それらの蓋を開けても何の得をしないと分かっていても開けたくなるように、行っても得をしないと分かっていても行ってみたい、そんな禁じられた魅力を感じていたのだった。
「本当にこんな駅も、町もないのか? こういう場所に詳しい人はいないのか? 旅行代理店ならさー、こういう廃路線厨とか廃村厨みたいな奴もいるんじゃないのかよ?」
「旅行代理店に廃路線や廃村に詳しい人がいたとしてそれが何の役に立つんだ。いたとしてもそんな旅行プランなんか用意しない」
「でもさー」
 熊野は押し黙り、国分の目をじっと見据えた。
「な、なんだよ」
「国分、あまり「あるはずのないもの」とか「よくわからないもの」「あってはならないもの」には関わらない方がいい。僕も君から送られてきたその観光ポスターを見て、その日のうちに君に送った外国のチラシは捨てた」
「なんでだよ」
「「あってはならないもの」と関わりがある可能性があるのなら、僕はそれを極力排除する。そう決めたから」
「でもさー! 気になるもんは気になるだろー、お前には好奇心とかもやもやをすっきりさせたいとかそんなのはないのかよ-、少年の心? みたいなそういうのをなくしたのか-? お父さんは悲しいぞ-!」
 だだをこねる国分にため息をつくと、熊野はネクタイをほどきワイシャツのボタンを外し始めた。
「え、ちょ、熊野?! いやいやいやどうしたいきなり!」
 制止も聞かず熊野は腹の中程までボタンを外し、シャツをめくって左胸を国分に見せた。

 彼の左胸には、直径五センチほどの鮮やかな玉虫色の入れ墨が入っていた。しかしよく見ると、その入れ墨はまるでそれ自体が生きているかのように流動し、脈打っているようにも見えた。

 魂を抜かれたようにその入れ墨から目を離せなくなった国分を見ると、熊野は再びシャツを着直し、何事もなかったかのように衣服を整えた。
「なぜこの世界には未だに、解明されていない謎があるかわかるか? 解明してはいけないからだ」
 やがてウェイターが2人前の前菜を盆に載せて運んできた。
「同僚さんが生きて帰ってきたのならよかったじゃないか。ちょっと精神が不安定だろうと、そのうち時が治してくれるだろう。それでいいんだ、そのうちなにもかも元通りになるはずだ」
 熊野は前菜を受け取ると、何事もなかったかのように食べ始めた。
「うん、このサラダは旨い。ドレッシングの香辛料もそれほどキツくないし、油っこくもない」
 腹が減っていたはずなのに、半分は下見のつもりで来たはずなのに、国分は前菜を前にしてもフォークを手に取ることも出来ず、しばらくただぼんやりと友人の食事を眺めているしかできなかった。





後日談ーーーーーーーーーーーー

 携帯が鳴り響いている。画面を見ると、またあのうるさい友人からだった。しばらく無視していたが、しつこいので仕方がなく出てやった。
「どうしたんだ」
「おーっす熊野! お前のマンションは大丈夫だったか?」
 いつもながら意味不明だ。
「うちのマンションは今日も健在だが、どうしたんだ?」
「どうしたんだって……地震だよ地震! 何だよお前、昼はずっと寝てたとか? バカなの? 死ぬの?」
「は? 地震? おいおい、おかしいのは顔だけにしておけよ……」
 地震なんて全く感じていないし、昼間はテレビを見ていたが地震速報などまったく入っていない。僕は首をかしげる。
「どこか別の県にでも旅行していたのか?」
 別の県で揺れていたのだとしても、速報は入るはずだが一応そう聞いておいた。
「県内っていうか市内だよ、山奥だけどな。あー……もしかして山崩れだったのか? まさかな……」
「何にしろ危なっかしい目には遭ってたみたいだな、初めての土地に行くときは、事前にできるかぎり情報を仕入れておいた方がいい、気象とか、地面や川の状況とか、治安とかな」
「お前が言うとマジな感じになってくるな。でもたかだか市内のレストランに行くのにそこまで重武装しねーよ……」
「ふうん、また料理屋巡りか。営業ってのは大変だな。美味い場所だったのか?」
「おう! イタリアンのコース料理食べてきたぜ!」
「イタリアンか……興味ないな」
「いやいやいや、これがうまかったんだって! マジで! チーズと蜂蜜のピザと魚介パスタが特にさー」
「牛丼かラーメンの美味い店を見つけたときは紹介してくれ」
「お前はもう! そんなもんバッカ食ってるからデブになるんだよデーブ!」
「そうかい、じゃあな」
「あっ、それでさ!」
 電話を切ろうとしたが、声に引きとめられる。
「その店が、いきなり山に開いた穴の中に消えたんだけど、そのニュースが全然やってないんだよ!」
「知るか。僕は忙しいんだよ」
 電話を切り、机に向かう。休日ではあるが、僕の頭は今度の旅行の企画でいっぱいだった。
「船上パーティーねえ……」
 

その後、熊文は出港しました →http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6358628

参照元

お返事

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@raidy9
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藤堂雷@旅先
伺かデベだよ。 軽率に人を殺すタイプの人間だから発言には死体と臓器と、あとBLなどもホイホイ出てくるよ、フォローボタンは覚悟を決めてから押せ。アイコンの藤堂君は留め金さん@sugar_14gに描いていただきました。

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